肺がんの診断と治療

 肺がんは徐々に患者さんが増加しつつああります。胃がんと子宮がんの患者さんは減少傾向にああります。大腸がん、肺がん、乳がんは増加傾向にあり、このうち肺がんは死亡率も上昇しています。早期発見による死亡率の低下をめざし、ヘリカルCTによる検診システムが試行され始めました。

 なお、喫煙が大部分の肺がんに関連していることがわかってきました。副流煙(近くでたばこをすっている人の煙をすってしまう)の害もかなり大きいことが判明してきました。喫煙者の方には申し訳ないですが、もう自分の嗜好だけの問題ではなくなっています。やめていただくしかないでしょう。医師の喫煙も以前と比べるとかなり減少しています。病院内の禁煙も常識となっています。私自身は30年前に禁煙しました。

目次

肺がんの診断

 肺ガンは、血痰や咳嗽などの症状があって、検査の結果判明する場合、症状がないが検診などで、異常があって、精査の結果見つかる場合の2つに分かれます。検診で見つかった場合のほうが、小さい段階で見つかることが多く、症状があって見つかった場合に比較すれば、後の経過も良いようです。

 検査は、X線CT、内視鏡、喀痰検査を主とします。最近は、これらに加えて、転移の検査のために、シンチグラフィーやPETが行われようになってきています。しかし、大事なのは、X線CT検査と内視鏡です。

 最終的な診断は、病理検査(細胞診断、組織診断)ということになります。

 なお、下記の文章中に出てくる”結節”とは、放射線診断上の言葉で、”画像診断検査で見えるかたまり”というような意味です。3cm以下の大きさのかたまりを結節とし、3cm以上の場合を腫瘍と表現します。結節や腫瘤を作らず、じわじわと這っていくがんもあります。こういうがんは、正常部分との境界がはっきりせず、診断およびがんの範囲の特定に難渋することになります。

■ 胸部単純X線写真

 最近は、下記のCT検査で発見される方が増えてきましたが、それでもやはり、普通の胸部のX線撮影で発見される方のほうがはるかに多いです。胸部には、心臓や食道、大血管などがあり、このために肺ガンが隠れて見えないことがあります。また、10 mm 以下の塊は発見しにくく、限界があるのも事実です。そのため、CT検査による検診システムが開発されつつあります。しかし、被曝の問題があるので、一般に用いられるようになるかどうかまでは不明です。

 治療後の肺ガンの経過を見るには最適な方法と思います。

■ CT

 肺ガンの診断の基本となる検査です。この検査を行わなくては、治療方針がたちません。MRIによる肺の検査も行われつつありますが、ある程度大きくならないとわかりませんし、MRIだけで治療方針をたてるのは無理です。MRIと違って、検査のスピードが速く、体内に金属があっても問題がないので、肺ガンが疑われたら、最初に行うべき検査です。現在の最新のCT装置では、肺全体を約10秒で細かく検査することができます。検査のスピードがあがったため、検査の待ち時間も減っていて、予約なしでできる病院も増えています。CT検査に1週間以上の予約が必要な病院は、混んでいるのではありません。性能が悪いので、数がはけないのです。速くできる病院に紹介してもらいましょう。新しい器械のほうが画質も良好です。

 CT検査では、次のような項目をチェックします。

  1)塊の大きさ。塊の形
  2)気管支との関係。肺血管との関係。
  3)胸の壁まで進行しているかどうか。
  4)縦隔(胸の真ん中の心臓や食道が通っている腔)まで進行しているかどうか。
  5)リンパ節への転移はどうか。
  6)頭部、頸部、肝臓、腎臓、副腎、骨への転移。
    頭部の転移は、MRIを使う病院が多いです。骨転移は骨シンチを行うのが普通です。

下図は、がんの模式図です。検索すべきポイントが書いてあります。

  下記の絵は、正常者のCT像で、自分の病院の症例ではありません。中央にある白っぽい領域が縦隔で、心臓、食道、太い血管があるところです。周囲の黒っぽいところが肺です。黒い理由は、空気が黒く透過しているからです。中央から肺に線状の手をひろげたような像がありますが、これが肺の血管です。辺縁に行くに従って、すぼまっていくのが正常です。

■ MRI

 現在(2004年)時点での臨床用のMRI装置では、肺の塊の検出は、CT検査に比べて相当落ちます。特に、腺癌のようなもやもやした塊はほとんど見えません。また、癌から周囲に進展する細い異常もほとんど見えません。肺がんにおいて、MRI検査を行うのは、特殊な場合です。もちろん、骨への転移や頭への転移の場合は、主たる検査の位置を占めています。

  1) 塊が、胸の壁に接していて、胸の壁にまで達しているかどうかを判断しなければならない場合。
  2) 塊が、肺の上の方(頭側、すなわち鎖骨の近く)にあって、詳細がわかりにくい場合。

ただし、これらの場合も、最近のCT装置がかなり良くなってきたので、必ずしも必要ではなくなってきています。

■ 内視鏡

 特に、気管支の太い部位にある腫瘍においては必須の検査です。外側に飛び出していない場合、CT検査ではわかりにくいのですが、内視鏡では一目瞭然です。また、粘膜の凹凸があまり正常と変わらないようながんもあるのですが、その場合も、わかります。他、軟骨への進展がわかります。一番最初に、生検が最終診断と書きましたが、その方法は、一つは、内視鏡的に針をさして検査をするか、もうひとつは、胸の外から針をさして検査をするか、どちらかの方法を採ることになります。

 最近用いられているのが、CT内視鏡という方法です。CT検査のデータを使って、気管支の壁の中の状態を知る方法です。1mm以下のスライス厚でCT検査のデータを作り、画像処理装置で、三次元データを用いて、最終的に作り上げます。昔は、1mm以下のスライスのデータは、1mm以下で撮影する必要があり、被曝量が多かったのですが、最新の装置では、1mm以下の厚みのデータも被曝量を増やさずに、得ることができるようになっています。

 

■ VATS(Vidoe Asssisted Thoracic surgery: ”ヴァッツ”と読みます。)

 胸の壁に穴をあけて、肺の一部を摘除する方法です。今流行の、低侵襲的手術方法の一つです。患者さんの負担は、手術に比べて少ないのですが、この方法を用いるためには、条件があります。

  1) 穴をあけないほうの胸の肺が正常であること。これは、穴をあけたほうの肺を一時的に、しぼませなければならないからです。

  2) 大きすぎないこと。大きければ取り出せません。
  3) 肺の外側にあること、内側(縦隔の近く)にあれば取り出せません。

 一種の手術であり、一部を取り出すというより、全部取り出して、検査するという形になります。取り出した結果、悪性であれば、その後の治療方針(化学療法を加えるとか)を変更する必要がありません。良性のものであれば、取り出した段階で終了です。

■ PET(Positron Emission tomography)

 原理については、長くなるので書きませんが、精度の良いアイソトープ検査であると考えてください。骨シンチグラフィーでは、壊れた骨の再生を見ているのですが、PETでは、腫瘍そのものの代謝を検出することができ、非常に敏感かつ、位置的な精度も高いと言えます。問題は、設備(サイクロトロンという加速器が必要です)に非常に費用がかかるため、値段が高いこと、その結果として、器械を持っている病院が非常に少ないことです。特に、がんの進展範囲の決定や転移の判定に非常に有効です。費用が安くなってくれば、診断の大きな柱のひとつとなる検査です。おおむね5mmの大きさがあれば、診断がつくとされています。ちなみに、CTでは10mmくらいの大きさがないと判断がつきません。もちろん、もっと小さくても、疑うというところまでは判断できますが・・・・。

■ 骨シンチグラフィー

 肺がんは、骨への転移が多く、骨の転移の検出にはもっとも有効とされる検査です。MRIは、非常に狭い範囲しか検査できないという欠点があり、全身の骨の検査としてはもっとも有効です。ただし、今後は、PETにその地位をゆずっていくかもしれません。

 

肺がんのタイプ

 肺がんの種類は多数あります。日本とWHOでは分類が違うのですが、2003年の日本肺癌学会での分類から主なものを書き出します。

1)扁平上皮癌
2)腺癌
3)小細胞癌
4)腺扁平上皮癌
5)大細胞癌
6)カルチノイド
7)粘表皮癌
8)腺様嚢胞癌

 多いのは、扁平上皮癌、腺癌、小細胞癌です。扁平上皮癌は、形がはっきりしているのが特徴で、たばこを長年吸っている人に多いとされています。腺癌はぼんやりした形です。周囲に這って進展していくことが多く、CTなどで見えるよりも広く進展していることが多いので注意が必要です。なお、以前は、たばこが影響しているのは扁平上皮がんと小細胞がんと言われていましたが、腺癌もたばこと関連しているという研究が出てきています。小細胞癌は、唯一、抗ガン剤が非常によく効く腫瘍で、普通は手術をしません。手術しない理由は、転移しやすいため、一部を手術しても駄目だからです。ただし、ごく例外的に、ごく初期の小細胞がんには手術をする病院もあるようです。

 カルチノイド、粘表皮がん、腺様嚢胞がんは、悪性度が低く、数も少ないです。原則手術治療を行います。

 

 

肺がんは他の癌とどう違うのか

 肺は、人間にとって酸素を体内に運ぶための重要な臓器です。このため、この部位の悪性腫瘍は、人間にとって致命的になります。また、他のがんも、肺に転移したために、命を落とすことになることが少なくありません。

 肺は面積が広いので、一部に小さな塊ができた場合は、手術で取り去ることにより、完全治癒することも不可能ではありません。一番予後が良いのは、転移なく、壁からも独立している小さながんです。もちろん、再発、転移する可能性があるのは、がんの場合、仕方のないことではありますが、こういうがんの場合には、なにごともなく、寿命を全うされる方も決して少なくはありません。ですから、症状が出ない前に、早期発見することが大事なのです。

 

 

 

転移性肺がんとは

 肺は、血液がかならず、通過する臓器です。これは、酸素をもらうためです。肝臓や腎臓も血液量は多いですが、すべての血液が通過するわけではありません。このため、血液の流れにのって、肺へ転移することはかなり多いのです。転移の特徴は、数が一つや2つではないことです。ひとつのこともありませすが、たいていの場合は、複数です。丸い形のことが多く、丸い形の塊が、多数、肺にみとめられれば、まず肺転移を疑います。転移のほうが先にみつかり、後から、転移の元が見つかることも少なくありません。肺に転移しやすいのは、大腸がん、胃がん、膵臓がん、甲状腺がん、子宮がんなどですが、他にもいっぱいあります。むしろ、転移しないタイプのがんをあげたほうが早いかもしれません。脳腫瘍だけは例外的に肺に転移することは滅多にありません。

 転移の場合は、数が多いことが多いため、治療は原則は、化学療法です。しかし、数が少ない時は、手術することがあります。一般的には、1つ転移があれば、見た目にはなくても、他にも転移があるだろうと想像されるのですが、必ずしもそうではないこともあります。その一つの転移を治療することで、落ち着いてしまうこともあるのです。ただし、原発が落ち着いていないと、新たな転移が次から次へと生じてきて、治療の意味がありません。

 

肺がんの広がりと治療の選択

肺がんの治療の原則は、小さい場合は、手術か放射線、広がっている場合は化学療法です。

現時点でのおおまかな治療方針を書いておきます。

手術: IIIA期以下の小細胞癌以外の肺がん。

 IIIA期とは、大きさと無関係に隣接臓器、即ち胸壁(superior su1custum our を含む),横隔膜,縦隔、胸膜,壁側心膜のいずれかに直接浸潤する腫瘍; または腫瘍が気管分岐部から2cm 未満に及ぶ’)が, 気管分岐部に浸潤のないもの; または無気肺あるいは閉塞性肺炎が一側肺全体に及ぶもの で、かつ、縦隔の反対側にまで腫瘍が進展していないこと、遠隔(鎖骨窩リンパ節、脳や肝臓転移)がないこと。(以上、肺癌取扱い規約より)という条件です。

 IIIB以上とは、すなわち、遠くの臓器に転移があったり、反対側の肺に転移があったり、縦隔の反対側に転移があったりする状態を言います。こういう状態で手術をすれば、患者さんの寿命をかえって縮める結果になってしまうので、手術はしないというのが普通の病院です。化学療法などに治療の主体をもっていくことになります。

化学療法: 小細胞癌

 小細胞癌の特徴はきわめて転移しやすいことです。また、薬が非常に効くので、普通は手術は行いません。放射線療法を組み合わせることが多いです。化学療法単独よりも、放射線を併用したほうが、成績が良いことが確かめられています。


 

 

肺がんにおける放射線治療の適応

 放射線治療は外科治療とほぼ同じ効果なので、外科治療に準じます。しかし、外科的な切除は、がんが胸の壁に達しているとできませんが、放射線治療は外科でできない範囲のがんの広がりでも治療できることがあります。また、外科的な切除は、そもそも手術に耐えられない人にはできません。こういう場合に手術をすることになります。

 小細胞癌と扁平上皮癌は、放射線が効きやすいので、放射線治療の対象となっています。腺癌も手術が出来ない場合は治療の対象となります。ただし、胸水など、進展範囲が広い場合には、対象となりません。

 

参考文献

■ MOOK 肺癌の臨床 Annual Review 2003 篠原出版社
  ひとつひとつの項目はあまり長くないのですが、診断から治療、遺伝子診断まで広範囲に書かれています。肺がんに関して、最新のことが知りたい場合には、適当と思います。

■ EBMの手法による肺癌 診療ガイドライン 2003年版 金原出版社
  過去の研究から、診断・治療の信頼性評価を行っています。手法としては、正しいのでしょうが、こだわりすぎていて、相当読みにくい。それに、古いデータを元にしているわけで、少々抵抗がないでもないです。

■ ミレニアム肺癌戦略 金原出版
  2000年に開かれた肺ガンワークショップの内容をまとめたもの。

■ 肺癌取り扱い規約 金原出版 2003
  値段が6700円(税込み7000円)ですが、結局、これが一番役に立つ本のように思います。医療関係者以外の方が読むには相当勉強しないと無理かもしれません。