放射線とは?

2006年7月17日改訂

目次

放射線の定義

 広い意味では、電磁波や粒子を放射する線ということですが、一般的には電離放射線を意味します。電離放射線とは、物質を通過する時、原子・分子をイオン化させる能力がある放射線という意味です。電離放射線は、体を通過するという能力があるために診断に用いることができ、通過する時に生物障害をもたらすという能力のために治療に用いることができますが、診断のためには、障害は不必要なことであることは言うまでもありません。人間をやけどさせることもできないコップ一杯のお茶程度のエネルギーで、生物としての人間に大きな作用をもたらすことができるのが特徴です。非電離放射線の代表は可視光線です。非電離放射線は、体を通過することはできませんが、その代わり、体に障害をもたらすこともありません。(一部紫外線を除く)。

ついでながら、現在、体を通過できるものには、磁気、超音波、電離放射線がありますが、障害を全く出さないと現時点でされているのは、磁気だけです。

電離放射線の種類

 大きく分けて2種類あります。電磁波と粒子線です。診断で使われるX線は電磁波に所属します。治療で用いられる陽子線、重粒子線は、粒子線に所属します。 治療においては電磁波(X線、ガンマ線)も用いられています。

電磁波型の電離放射線

 電磁波には、電波や、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線などが含まれます。電磁波の特徴は、粒子の性質はあっても物質は伴わないことです。速度がすべて一定で、3 X 1018cm/秒です。要するに、光の速度です。X線は、周波数が10 X 1017Hz前後です。ちなみに、紫外線は10 X1016Hzまでで、ガンマ線は10X1019Hz前後です。

粒子型の電離放射線

 電子、陽子、中性子、アルファー粒子などの粒子が、様々な速度で飛んでくるものを粒子線といいます。  サイクロトロンやライナックなどの加速器を使って、粒子を加速することができます。すなわち、電磁波型の放射線との違いは、速度が一定ではないことです。加速するとは、エネルギーを高くすることですが、エネルギーを高くすると、深部の線量が高くなり、表面線量が減ります。 ということは、体内の深い位置にある癌を治療するのに適した放射線ということになります。電磁波型の放射線機器と違って、加速するための施設が必要なため、非常に高額な装置と、広い設置面積が必要です。

放射線の種類による治療効果の違い

 現在、主に使われている治療用の放射線は、ガンマ線、速中性子線、電子線、陽子線、重粒子線です。速中性子線は、最近はほとんど使われなくなりました。新しい放射線として、陽子線、重粒子線が用いられるようになっています。加速された高エネルギーの陽子線、重粒子線は、体内の奥深くまで届くので、精度の良い治療ができるのですが、欠点として、装置がおおがかりになり、従って、費用が高価になってしまいます。しかし、今後広く用いられるようになれば、費用も安くなっていく可能性があります。使う放射線は、同じガンマ線でも、回転照射などのように、照射の仕方を工夫することにより(IMRTなど)、精度の高い治療効果をめざすという方法も様々に工夫されるようになってきています。

 

 

新しい放射線治療(Radiosurgery)

 放射線治療は主に悪性腫瘍の治療に用いられます。副作用もあるので、良性治療に用いられることは日本では少なくなりました。例外的に、良性の疾患ではありますが、脳動静脈奇形の治療法として用いられています。外科的な手術か放射線治療しかできない疾患です。どちらかを選択しなければならないのであれば、外科的な手術よりはこちらを選択することは、十分に合理的です。もう一つ、悪性腫瘍ではないが放射線治療が用いられているのは、難治性てんかんです。なお、諸外国では、良性疾患でもかなり放射線治療が用いられています。2001年の統計では、日本では、悪性腫瘍 55%, 良性腫瘍 28%、血管疾患 15%ですが、ヨーロッパでは、悪性腫瘍は31%にしかすぎません。良性腫瘍が40%と多く、血管疾患が25%とかなりの率となっています。

 新しい放射線治療法が出現したことにより、疾患によっては、結果も、外科手術とほとんど同等かそれ以上の結果が得られるようになりました。今までは、手術ができない部位(脳の奥深くなど)は、治療が何もできない状態でしたが、radiosurgeryを使えば、十分治療ができる可能性があります。しかも、その部位だけに限れば、完全治癒が期待できる場合もあります。残念ながら、現時点では、あまり大きな腫瘍は治療できないなどの制限がありますので、そのあたりには十分な考慮が必要です。 新しい放射線治療は、大きく2つに分類できます。ひとつは、新しい放射線(粒子線等)を用いる方法、もうひとつは、既存の放射線をコンピュータなどを使って、病巣部位に集中照射する方法です。新しい種類の放射線(粒子線)を使った方法は、別記しましたので、ここでは、新しい照射方法を用いた放射線治療について書きます。外科手術と同じような対象、目的で、同じような結果をもたらすので、radiosurgeryと総称されています。定位放射線照射(stereotactic irradiation; STI)という言葉も同じ概念です。既存の方法では、正常部分にも放射線がかかってしまうので、病巣部位に、高い線量をあてることができませんでした。放射線を当てる方向を変えたり、コリメーターの形を変えて、コンピュータで細かく線量を計算することで、病巣だけに集中的に放射線を照射します。装置としては、ガンマナイフ、Linac radiosurgery system(X ナイフ)、サイバーナイフなどがあります。

 ■ ガンマナイフ

 もっとも歴史の古いradiosurgeryの方法です。スエーデンのLeksell教授が1968年に開発しました。頭部専用です。ヘルメットに内部に大量にはりめぐらされた、コバルト60から、ガンマ線を照射します。日本には、1990年に第一号機が導入され、脳腫瘍、脳転移の治療機器としてなくてはならないものになっています。ただし、3cm以下の腫瘍が対象です。それ以上の場合は、外科手術を行い、残存部分に、ガンマナイフを行う治療法が推奨されています。治療は1度で終了できるところも大きな利点です。病院によって方針が違いますが、2泊3日で治療をする病院が多いようです。最近、自動位置合わせ装置(Automatic Positioning System;APS)が装備されるようになり、より精密な治療が行えるようになりました。1996年に保険適用になっています。

 ■ Linac irradiation (Linac 定位放射線照射法)

 X線をコリメーター(絞り)を使って細いビームにし、回転しながら、照射することで、病巣に放射線を集中させる方法です。 IMRT(Intensity Modulated Radio Therapy)がその代表です。X線源は、既存と同じですが、絞りの形を変え、多方向から照射することで、治療効果を上げています。絞りの形や、方向の設定には、コンピュータによる莫大な計算時間がかかるのが欠点ですが、頭部のみでなく、全身用として使えるのが利点です。1度の照射ですませる方法(stereotactic radiosurgery)と、分割照射(stereotactic radio therapy)の2つに分けられます。疾患によって、一度ですませるか、分割するか決めます。照射量が思うようにならないことがあり、それが今後の課題となっています。理想より照射量が足りない部分をcold spot、理想より、多く照射されてしまうところをhot spotと呼びます。ガンマナイフと同じように、30mmくらいが、治療できる腫瘍の大きさの上限です。頭部疾患は、ガンマナイフのほうを選択したほうが良いのではないかと思われます。

 ■ サイバーナイフ (Cyberknife radiotherapy)

1993年にstanford大学のAdlerによって開発されました。ロボットのアームの先端に、ライナック照射装置があり、それを位置移動し、多方向に照射することで、局所への放射線の集中をする方法です。大きな特徴は、骨の透視をしながら照射の位置を決定するので、体のずれが問題になりません。ガンマナイフよりも、細かい設定が可能となっています。オリジナルの装置では、骨の位置でずれを補正していましたが、腫瘍の位置に、マーカー金属を埋め込み、それを透視して、位置補正をしながら照射する方法(追跡照射法と呼ばれているようです)も研究されています。

 ■ 参考ページ

 1)国立がんセンター

 

放射線の副作用

 1999年 東海村で、大量の放射線被曝事故が起きました。私が患者さんたちを診察し、画像診断をしたのは、被曝の翌日でした。皮膚が赤く日焼けしたように見えるくらいで、お元気でした。その後の経過は、ご存知のとおりです。どんなものでもそうかもしれませんが、人間にとって良い作用と悪い作用があります。良い面が強いものほど、副作用も強いというような要素があるようです。

副作用について簡単にまとめてみました。

1) 胎児に対する奇形発生


 大量であれば、致死的状態となります。

2) 細胞死


 感受性が高い骨髄、生殖細胞が弱いとされています。問題となるのは、骨髄障害で、貧血、白血球減少による感染症、血小板減少による出血傾向が発生して、生命に危険を生じることもあります。化学療法(抗がん剤)との併用で副作用は強くなります。
 がんの治療のために、卵巣に照射して、ホルモン産生を抑える治療をすることがあります。
 また、骨髄移植のために、全身に照射して、現在存在する骨髄細胞が移植された新しい骨髄細胞を攻撃しないように照射します。

3) 発ガン


 広島、長崎原爆で、爆心地に近いほど、白血病の発生率が高いことが知られています。実験でも、骨肉腫などの発生が高まることが知られています。被曝後すぐには発生せず、数年を経過してから発生するのが特徴です。
  放射線治療後に、10年近くの歳月を経て、二次発ガンが、まれに生じることが知られています。骨肉腫などの肉腫系の発生が多いとされています。

4) 炎症反応


 急性反応と慢性反応があります。放射線をかけた直後に、皮膚が発赤したり、粘膜が炎症を起こすことがしばしばあります。ただし、これらは時間が経過するにつれて、大部分が、消失することが多いです。こういった急性反応は、おおむね3ヶ月から半年後くらいにはほぼ消失します。痕跡が残ってしまうことはあるようです。
 重篤な慢性反応としては、皮膚や粘膜の潰瘍形成や神経系の壊死などがあります。おおむね、放射線照射後、半年から1年くらいに出現してきます。こういう慢性の障害をなくすのが、放射線科の医師の役割です。一般的に、こういった重篤な慢性障害は非常に直りにくいのを特徴とします。それくらい強力でなければ、がんを抑えることはできないのです。正常組織になるべくダメージを与えず、癌のみに強力な放射線をかける方法がいろいろ工夫されています。粒子線治療、ガンマナイフ、サイバーナイフ等、まだ、照射方法に関しては、発展段階にあるといっていいと思います。

5) 放射線宿酔


 照射直後に、悪心、嘔吐、不安状態などが出現することがあります。一時的に休止したり、服薬したりすることにより、大部分が改善します。

 ** 細かい数字、国際基準などについては独立行政法人科学技術振興機構のページが詳しいのでご覧ください。

    原子力事典Atomicaの中の、生物影響の項目に放射線による人体への影響に関する
     詳細なデータが記載されています。